私が大学を卒業後、実務を学んだ設計事務所が芦原太郎建築事務所であり、そして私が独立後最初に頂いた仕事が、この絵本『家族をつくった家』の作画依頼だった。その後の人生に少なからず影響を与えたこの仕事は、太郎氏だけでなくその父親で建築家の芦原義信氏(銀座ソニービル等の設計で知られる巨匠)の建築に対する思想、理念などに触れられる貴重な体験だった。絵本の舞台は芦原義信設計の自邸だが、住宅とは、そして生き方とは、ということに対してのひとつの解がそこにはある。
自邸とは
この絵本にでてくる芦原自邸は、建築としてはごくごく控え目に佇んでいる。建築家が表現者として、また実験場として自邸を扱ってきたことと比べると、この家は一見‘普通’な佇まいである。しかし建築家の住まうことへの思想は確かにそこに存在し、結果的には他の建築家同様、実験場としての自邸がここにも存在している。
15坪から始まった平屋の小さな家は、家族の成長とともに少しずつ増改築を繰り返し、やがでは2階建てとなり、さらにはサウナや露天風呂、そして雑木林が育つ家に成長した。建築に合わせて人が住まうではなく、人に合わせて建築が進化する、という概念である。この家には確かな豊かさや愛情が溢れている。建物が主役ではなく、あくまでも人が主役であり、人とその生活の豊かさのための舞台として建築は控え目に佇んでいる。
大震災を体験した今の私たちは、なおさらに豊かさや幸せとは何なのかを真剣に問われているように思うが、建築の役割、そしてその力を私も引き続き考えていきたい。
この絵本の物語を端的に記された記事が、7/20発売の「Ku:nel(クウネル)vol.51号」(マガジンハウス)に特集されている。是非一読頂ければと思う。